第5章 韓国人労働者問題

1.韓国人労働者の労働権制約

合意議事録 第17条第2項

 合衆国政府は、雇用を継続することが合衆国軍隊の軍事上の必要に背馳する場合には、 いつでも雇用を終了させることが出来る。

 上の規定は、「軍事上必要」という曖昧な概念が問題となる。わが国の勤労基準法第27条12項は、使用する勤労者に対して正当な理由無く解雇できないように規定しているが、軍事上必要という概念を解雇事由に設定することは勤労基準法にも背く。

 「軍事上必要」を判断する主体が米軍であるため、部隊で勤務する韓国人労務者が一方的に被害を被り得る。いつでも米軍の立場の変化によって予告なしに職場を失うかもしれない不安、雇用の不安定さは労働者の最も大きな精神的苦痛である。軍事的必要による解雇の余地を無くし、国内勤労基準法の「正当な事由」の有無にしたがって解雇することが出来るように改正されねばならず、上の規定は削除されるのが当然である。「軍事上必要」という漠然とした概念による労働法適用回避の余地を無くすべきだ。

2.つじつまの合わない条項

本協定 第15条第3項(リ)

 招請契約者は、雇用条件および事業と法人免許と登録に関する大韓民国法令の適用か ら免除、ここで招請契約者は、駐韓米軍の円滑な軍生活のために米合衆国と契約を結び、 米軍部隊で働く人と法人を意味する。

 上に記した15条3項と17条3項は、互いに利害が相反する側面があり、具体的な問題解決に多くの混乱を惹起している。

【事例】 最高裁判所判決に反発する米軍

 さる94年11月8日、駐韓米軍に勤務する韓国人勤労者であっても、賃金などの雇用条件に関する限り、国内労働法を適用しなければならないという最高裁判所の判決が下された。最高裁判所は94年5月、駐韓米軍に勤務した時給制の韓国人労働者24名が出した訴訟と関連して、「時給制は月給制と違い各種手当てが賃金に含まれていない。」と判断した。

 したがって、これらの労働者達に勤労基準法を適用、別途の週休ならびに月次手当を支給しなければならないと判決したのである。これは、この間に独自の人事規定を適応し、労働者の賃金を一方的に決定してきた駐韓米軍の慣行にブレーキをかけた異例のものであった。

 しかし米軍側は、94年11月17日の韓米合同会議で、駐韓米軍側は韓国人労働者であっても賃金など雇用条件に関する国内法を適用しろという最高裁判所の判決に強く反発し、事実上これを拒否した。米軍当局は、韓米行政協定15条3項をあげ、韓国のどのような機関も労使紛争の管轄権がないとし、韓国の裁判所がこの事件を裁判すること自体が違法だとして高圧的態度を見せている。

3.甚だしく長い冷却期間

本協定 第17条第4項(5)

 雇用員団体や雇用員は、争議が韓米合同委員会に回付された後、少なくとも70日の機関が経過しない限り、正常的な業務用件を妨害するどのような行動にも従事してはな らない。

 上の内容は、合同委員会に回付された後、70日間は団体行動を含めた争議行為ができないように規定している。

 しかし、70日間の冷却期間は、現行労働争議調整法(第14条)上の冷却期間(一般事業体10日、公益事業体15日)より遙かに長期間で、一般労働者より差別待遇を受けている。冷却期間があまりに長く、争議自体を萎縮させて労働者が不利益を被る憂慮が大きい。米軍部隊で働く労働者は、合同委員会に回付されてから70日が過ぎなければ争議行為に突入することができるようになっており、事実上、労働者の団体行動権を認定されていない。

4.労働者の参与なき労働争議調整機関

本協定 第17条第4項(3)

 合同委員会は、迅速な手続きが伴うという確証下に、その争議を解決する。合同委員会の決定は拘束力を持つ。

 韓米合同委員会は、大韓民国の政府代表と米軍側の代表で成り立ち、最終決定力を持つが、ここでは労使紛争の一方の当事者である米軍当局の代表者のみ参与するのだが、これは公正の原則に背くので、雇用員の権益保護という次元で雇用員代表の参与も共に保障されなければならない。現行協定では、韓国人労働者の代表参与は源泉封鎖されているので不利益を被る素地が大きい。


集中探求

米軍部隊の中の韓国人

労働者の法廷闘争

 駐韓米軍と契約を結び、国内で事業をしている米国企業〈エムコ〉で勤務した禹ジョンヨン氏ら24名の韓国人労働者が、1990年ソウル民事地裁に、週休、月次、時間外手当て支給を要求する訴訟を提起した。被告人エムコ側は、韓米行政協定上、韓国裁判所に管轄権が無いとして初めから裁判なしに訴訟自体を棄却することを要求したが、裁判部は1992年3月27日、エムコ側が勤労基準法に従って週休、月次手当を支給しなければならないという原告勝訴の判決を下した。

 エムコ側は、即時ソウル高等裁判所に控訴したが、原審判決がそのまま維持され、このような基調は最高裁判所でもそのまま受け継がれ、1994年5月24日に週休、月次手当てを支給しなければならないという最終判決が下されたのである。これは独自の人事規定を盾に韓国人労働者の賃金を一方的に決定してきた駐韓米軍の慣行にブレーキを掛けたものであった。

最高裁判所判決も拒否する駐韓米軍

 問題は最高裁判所判決以後からであった。駐韓米軍は、「駐韓米軍内のどのような争議も韓国の機関が管轄権を持てない。」として、この事件を裁判すること自体が韓米行政協定に違反した行為だと主張し、最高裁判所の判決を履行しないことを我が政府に通告してきたのである。駐韓米軍は、不平等な韓米行政協定を一方的に米軍有利に解釈し、わが国の司法権まで無視してしまう傲慢な態度を包み隠さずさらした。

 最高裁判所判決までも認めず拒否する高圧的な態度は韓米行政協定に起因する。本協定第17条3項には、駐韓米軍は雇用条件、補償および労使関係は大韓民国の労働法令の諸規定に従わなければならないと規定されており、その下の4項には、勤労者の雇用条件は軍事的必要がない限り大韓民国労働法令を遵守しなければならないと明示されている。わが国の裁判部は、上の条項を判決の根拠と定め、米軍内で勤務する労働者に国内労働法を適用すべきとの判決を下したのである。

 しかし、第15条3項には、招請契約者(今回の事件のエムコ社のように米軍と契約を結んだ米国の会社)は、雇用条件および事業と法人免許登録に関する大韓民国法令の適用から免除されるとなっている。そして駐韓米軍側は、第15条3項を根拠に韓国裁判所に管轄権が無いと主張し、上の裁判自体が違法であると強く反発して出たのである。

 韓国人労働者の権益保護のための装置は及ばず、それさえ米軍側が韓米友好関係云々し韓国法適用を拒否することができる余地が多く、今回の事件のように司法府の最終判決が下され時間が過ぎた今も、外向的な論難だけが継続されるだけで、訴訟を提起してまで権利を求めようと努力した労働者の労働権が保障される様子は見えないのである。

韓国人労働者の労働現実

 駐韓米軍で勤務する労働者は約1万6千名に達する。駐韓米軍労働組合が結成されているが、不平等な韓米行政協定によって労働法の適用を受けることができなかったが、勤労基準法は彼らにも適用されなければならないという判決が出たのである。その間、韓国人労働者は、雇用関係の不安定によって何時解雇されるか判らない不安感で常に苦痛を受けてきたし、用役会社が変わるごとに包括的に雇用が継承されない関係で、1年ごとに退職金が精算されるなど、あらゆる不利益を甘受しなければならなかった。

 韓米行政協定の付属文書、合意議事録第17条2項には、合衆国政府は雇用を継続することが合衆国軍隊の軍事上の必要に背馳する場合、何時でも雇用を終了させることができると規定されている。

 わが国の勤労基準法には、正当な事由なしに労働者を解雇させることができないと明示されているが、行政協定に挿入された漠然とした概念である「軍事上必要」は、使用者である米軍の意志通りに悪用される素地が高く、労働者の地位を不安定なものに作り上げてしまった。その上、10年を超えて勤務した労働者の賃金が、現在まで最低賃金の水準に留まり、雇用関係の不安定と共に二重三重の苦痛を受けてきた。これは、95年1月にソンタン米軍基地で働く韓国人労働者に対する一方的な大量解雇措置でもよく表れている。駐韓米軍内韓国人労働者の不当な労働条件が、改善される兆しが見えないにも拘わらず、米軍側の立場は変わらないでいる。


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