民族時報 第1115号(07.06.15)


【寄稿】FTAは米国の支配の戦略/北朝鮮とFTA推進すべき

    韓米FTAの妥結 跳躍か、亡国か(下)

 郭洋春(立教大学教授)

■妥結は成功か失敗か

 具体的には、機械工業分野のうち、一般機械器具、電気機械器具、金属産業、精密化学のすべての分野において輸入が増え、サービス分野では、外国人の投資が活性化することによって競争力が向上し、生産や雇用が全般的に増えるが、米国に比べ価格や品質競争力の面で劣っている韓国の多くの中小サービス業が淘汰(とうた)される可能性がある。

 また、農業分野においては、米国の安価で良質な農・水・畜産物の輸入が増えることにより、消費者の選択の幅が広がり、物価も安定するが、小規模農家の多くが淘汰されることになり、韓国内での生産の減少や雇用不安の増大といった事態につながると予測している。そして、最終的には、韓国の方が米国よりの経済的利益が多いとしている。確かに経済的効果だけを見るならば、韓国の方が有利であろう。現に、米国の民主党議員を中心に強硬派は、牛肉の輸入問題に関連し、韓国側がさらなる市場開放しなければ、議会での承認はしない、とまで主張している。世界に冠たる米国をして韓国が有利にFTA交渉を妥結したのは、マスコミが指摘する通り慮武鉉大統領のリーダーシップの力なのか、それとも別のところにFTA妥結の真意があるのだろうか。

■米国の本当の狙い

 米国はアジアの数ある国の中から韓国を最初のFTA対象国とする戦略的選択をした。この間、韓国の「自主路線」により韓米軍事同盟が揺らいだことを批判していた米国が、FTA締結を通して経済的関係を強化し、韓米関係を安保・経済複合同盟に引き上げようとしたのである。その背景には、単なる韓米関係の悪化にとどまらず、北東アジア情勢が、北朝鮮の核・ミサイル開発によって、これまでの韓中日三国の競争・協力構図が、@中国の影響力拡大A日本の軍事力強化B日米豪同盟体制強化など、複雑化するなかで、韓国が中国と北朝鮮に急接近しており、このままでは朝鮮半島における米国のプレゼンスが低下するとの危機感があったからである。そのために米国は、一見すると韓国側に有利に作用する可能性もあるFTAの合意を急いだのである。韓国の外交通商部高位関係者が、「韓米FTAのなかには中国をけん制し、日本を刺激すると同時に、韓国の親中、親北朝鮮路線に歯止めをかけるという米国のメッセージが隠れている」と述べていることが、それを裏付けている(「中央日報」四月四日付)。

 こうした米国の北東アジア戦略に関して注目すべきもう一つの合意事項は、北朝鮮の開城工業団地(開城工団)の加工製品を韓国産と認める道を開いたことだ。米国は従来、開城工団内で生産された製品について、北朝鮮を利するとして韓国製品とは認めないという姿勢をとり続けてきた。それが交渉の最終局面で、突然認めるとの立場に転換したのは、米国はこれを北朝鮮の改革、開放を誘導するテコにしようと考えているからだ。すなわち、韓米両国がFTA推進に向けて「朝鮮半島域外加工地域委員会」をあえて設定したのは、まさに開城工団を念頭においたものだ。ここで注意しなければならないのは、「開城工団のような韓国域外で生産された製品を韓国製と認めるためには、朝鮮半島での非核化の進展が条件」となるということだ。要するに、北朝鮮の非核化が進まなければ韓国製品とは認めないということだ。これは北朝鮮に対する核放棄圧力であると同時に、韓国をして北朝鮮に核放棄圧力を加えさせようという狙いがあるということだ。さらには、北朝鮮への核放棄圧力が進めば、中国の対北影響力を低下させることができる、という利点がある。要するに、韓米FTAは純粋な経済問題ではなく、米国の高度な政治的・軍事的戦略があるということを見逃してはならない。

 したがって、今回の韓米FTAを単なる両国の貿易関係をめぐる得失の有無、ととらえるのではなく、朝鮮半島をめぐる政治・軍事・地政学的力学関係として位置づけなければならない。要するに、米国にとって重要なのは、韓国との間で貿易関係を強化するというよりは、FTAを生かして朝鮮半島に利害を有するあらゆる国に対して、影響力を及ぼそうとしているということだ。

 韓国のように対外依存度(経済発展の中心が貿易によって支えられている)が高い国が、FTAを通してさらに対外依存度を高めればどうなるのか。それは、国の根幹を外国(特に米国)に押さえられてしまうことを意味し、対外(米)自主政策がとれなくなっていくことを意味する。今回の韓米FTAは、貿易効果だけを見るならば、韓国の対米輸出が伸び、韓国の経済発展にとって有利に作用するように見えるが、それは事態の表面を見ているにすぎず、本質は米国の朝鮮半島において希薄化した韓米関係を再び米国が優位に立つ同盟関係へと再構築し、経済の自由化を通して北朝鮮の非核化、ひいては政治体制を動揺させ、周辺国(特に、日中両国)に対する有利な立場を築くことに狙いがある。

■韓国の進むべき道

 現在FTAは世界的潮流である。したがって、韓国が他国とFTAを結ぶのは決して間違った選択ではないだろう。しかし、FTAが双方にとってプラスに作用するには、双方の経済構造を相互に補完できる国との間で結ぶのが最も理想的なFTAだ。韓国の場合、なんと言っても、北朝鮮との間で経済的協力関係を結ぶのが、最適である。FTAとはヒト、モノ、カネの自由な移動を保証するものであり、その際、南北間でのヒト、モノ、カネの自由な移動が保証されるならば、韓国が資本と技術を提供し、北朝鮮が労働力と市場を提供することにより、シナジー(相乗)効果が生まれることになる。これに在日同胞が有している技術力と日本での市場占有力が加わるならば、韓国の対日貿易赤字が解消するだけではなく、南北海外同胞の間での信頼造成、ひいては経済的紐帯(ちゅうたい)を通した一体感が生まれるだろう。筆者はそれをコリアン・ネットワークと呼んでいる。コリアン・ネットワークとは南北の統一経済を構築するための第一歩であるばかりではなく、祖国へのシンパシー(共感帯)を失いつつある在日同胞を、経済的側面から結びつけ、ひいては祖国への親近感をわき立たせることになる。

 したがって、韓国政府が今後、純粋にFTAを追求しようと考えているならば、先ずは同胞である北朝鮮とのFTA=経済協力を追求すべきなのである。


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