【解説】小選挙区制と国民投票違う/9条の維持は66%
翼賛国会化状況と平和憲法の危機
高田健(国際経済研究所)
総選挙の結果は議席で見ると自民党の歴史的勝利であり、自公与党は衆議院の三分の二を超えた。予想外の結果に日本の運動圏の人びとの中でも、落胆し、「海外への脱出」を口にする者すらでてきた。筆者も驚いたのだから、決して強がりをいうわけではないが、しかし、そんなに嘆くことなのであろうか。
各党の議席占有率の差は小選挙区制という選挙制度のなせるワザで、実は自民党の得票数は五割に満たない。自公与党合わせても小選挙区で五割に満たず、比例区で五割そこそこである。憲法を変えようとすれば最終的には「国民投票」で過半数を得なければならない。選挙の得票数は国民投票を考える際にはひとつのバロメーターとなる。
「毎日新聞」がこの選挙の最中の九月二日から四日にかけて行った憲法に関する全国世論調査では、「九条を変える」ことに反対した人が六二%で、「変えるべきだ」という意見は三〇%にすぎなかった。女性は六八%が反対で、男性は五七%。特記すべきことは二十代の反対は七〇%もあったのである。たしかに「憲法改正」に賛成は五八%、反対は三四%、つまり、憲法のどこかは変えた方がいいという人は五八%であるが、九条は変えてはならないという人が六六%いるということである。実はこの毎日新聞の調査は一般に他のメディアの憲法に関する世論調査の結果と特に変わった傾向をしめしているというわけではない。多くの有力メディアの世論調査はこのところほぼ同じ傾向を示しているのである。
小選挙区制という選挙制度の下であらわれた与野党の議席と得票率のねじれは、こと「憲法九条」に関していえばさらに大きいということを見逃してはならない。
たしかにこの総選挙の敗北を受けて野党第一党の新代表になった前原氏は九条第二項の確信犯的な改憲論者であり、自民党の中で急速に改憲の動きが強まっていることと合わせて考えれば、「平和憲法」は憲法制定以来の歴史的危機に直面しているのは事実である。
旧聞に属することかも知れないが、今年五月末、衆議院憲法調査会の中山太郎会長(現・衆院憲法特別委員会委員長)は自民党憲法調査会の保岡興冶会長とともに、欧州憲法批准の国民投票を見学するためフランスとオランダを訪れた。彼らがそこで目にしたのはフランス政府の敗北宣言だった。一緒にテレビで開票結果を見守ったパリ十五区の区長は「(国民投票は)民主主義のよい例だが、予期せぬ結果をもたらすこともある。問題提起の仕方も非常に複雑だった」と二人に語ったという。保岡氏は「直接民主制のすさまじさを見せつけられた」と述べ、中山は「われわれが経験したことのない民主主義の形だ。はっきり言って怖い。(自分たちが議会の多数を占めていると)思いこんでしまったら、シラクの二の舞になる」と語ったという。五年半にわたる憲法調査会の最終報告書をまとめ終え、改憲に向かって大きな一歩を踏み出したという自負を抱きながら訪欧した中山らは、フランスの国民投票で政府側が敗北するのを目のあたりにして身震いしたのである。
冒頭、例示した総選挙の得票率と、毎日新聞の世論調査結果はこの中山氏の怖れを裏付けていると言えないであろうか。
もちろん、このまま行けば改憲の国民投票で負けないという楽観論を言いたいのではない。世論調査がそのまま投票に反映するほど、ことは容易ではない。問題はこの九条護憲の意識をわたしたちが組織しきれるかどうかにかかっている。時々の「風向き」に左右されないほどの地に足のついた本格的な運動をいかに作っていくかであると思う。
昨年六月に大江健三郎さん、加藤周一さん、三木睦子さんなど九人の知識人が呼びかけた「九条の会」は一年余を経て大きく発展しつつある。各地の講演会などの催しが超満員というだけでなく、呼びかけにこたえて、まだ初歩的ではあるが地域などに思想信条・政治的立場のちがいを超えた「九条の会」がすでに三千か所を超えて組織され、この勢いは続いている。今、この運動は海外にまで組織化の波が広がりつつある。もしこうした運動が与党の支持者の中にも多数存在する九条護憲派をも含んで大きく発展していったらどうなることだろう。筆者はこうした草の根の運動と世論が結びついた時の状況を想像している。