民族時報 第1072号(05.08.01)


【解説】「つくる会」教科書不採択へ/文科省と連携で巻き返し策動

    「つくる会」教科書採択をめぐる攻防

 日本の過去の植民地・侵略戦争を美化する教科書作りを進める「新しい歴史教科書をつくる会」(つくる会・八木秀次会長)が編集した扶桑社発行の歴史わい曲教科書が、四月五日に文部科学省(文科省)の検定に合格して以降、各自治体での教科書採択が新たな争点となっている。

 「つくる会」は検定後、採択率一〇%を目指して各市区町村教育委員会に同教科書を採択するよう執ように働きかけるなど、陰湿な動きを見せている。

 検定申請前の三月十二日、扶桑社の白表紙本(検定申請図書)が一都一府十七県の教育委員会関係者に提供されていたことが明らかになった。昨年三月も検定申請を行った後の七月下旬以降、一都十県の教科書選択に関与する者に白表紙本を配布していたことが明らかになっている。

 白表紙本を使っての各社の営業・宣伝活動は「教科用図書検定規則実施細則」によって禁止されており、公正取引委員会告示第五号の一にも「教科書を使用するもの、または教科書の選択に関与するもの」への物品の供与を禁止している。

 文科省は扶桑社に対して事情聴取を行い、同社は教育委員会関係者に白表紙本を提供したことを認めて陳謝したが、配布主体の扶桑社での役職や地位などは一切明らかにされておらず、その実態も十分には明らかにされていない。このことは文科省が、特定の団体や出版社の不公正を隠ぺいするために情報制限し、扶桑社だけに「白表紙本を使っての営業・宣伝活動」を実質的に認めている、との批判を免れることはできないだろう。

 こうしたなか、東京では七月十九日に、豊島区で教育委員会が開かれ、教育委員長が「つくる会」教科書を推薦したが、他の教育委員から異論が相次ぎ、二度にわたる記名投票の結果、不採択となった。また新宿、品川、目黒の各区、昭島、清瀬市でも不採択となった。東北では仙台市が、北海道では函館市が不採択にしている。和歌山県、静岡県でも不採択となったのに続き京都市内の三地区が二十一日に教育委員会を開き、地元の中高一貫校を含め「つくる会」教科書を不採択にした。宮崎県の宮東地区(宮崎市、宮崎郡、東諸県郡)は中山文部科学大臣の地盤であるが、ここでも「つくる会」教科書は不採択となっている。

 こうした動きは、各自治体や教育委員会への申し入れや要請行動など、市民団体の熱心な活動による成果といえる。

 一方で、七月十三日、栃木県の大田原市教育委員会が全国の市町村で初めて「つくる会」の歴史・公民教科書を採択した。そしてその翌日には、読売新聞の朝刊に「『新しい歴史教科書』を採択します」という意見広告が、「つくる会」教科書を現在使用している私学八校のうち七校の連名で掲載された。今回の採択は、各地の教育委員会で採択が行われる出発の時期にあたることから、「つくる会」教科書に反対する一人の教育委員が外遊中に強引に行われており、その翌日に意見広告を出すなど、「つくる会」教科書の採択率を高めるために用意周到な根回しがあったのではないかとの疑問も提起されている。

 しかし、大田原市の採択に対しては一日あまりで反対意見がメール、ファクスで七百七十九件、電話百三十九件の合計九百十八件にのぼり、抗議と撤回を求める要望は二日あまりで三千件を超えた。こうした抗議は、日本だけにとどまらない。栃木県と交流関係を結んでいる中国浙江省からは、「日本の右翼の歴史教科書は、日本が侵略戦争に対して政治的、道義的責任を負うべきことを希薄化し、言い逃れているばかりでなく、侵略の歴史を覆すことすらもくろんでいる」「県は大田原市に(教科書を)採択しないよう働きかけることを希望する」との抗議文が届いた。また韓国の歴史問題研究所や民主労総、民芸総など九十団体で構成される「アジアの平和と歴史教育連帯」(教科書運動本部)も七月二十四日に声明を発表し、「つくる会」教科書は「日本の侵略戦争と植民地支配によって韓国の人々が負った苦痛を隠ぺい・縮小し、子どもたちに軍国主義精神を植え付けるため、アジア侵略の歴史をわい曲し戦争を美化している」とし、大田原市教育委員会の今回の採択決定が「韓日友好とアジアの平和を脅かす重大な挑戦であることを警告し、この決定を直ちに撤回するよう」強く求めている。

 現在も、「つくる会」教科書を採択する危険性がある自治体は多い。各自治体での教科書採択は八月中旬まで行われる見通しであり、自治体や教育委員会へのねばり強い要請活動が今後も求められる。

(康革柱記者)


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