【紹介】総合的な批評誌を創刊/反戦、反差別、反植民地主義
文化的抵抗の一つの拠点をめざして
岡本有佳(季刊『前夜』編集長)
「内部からいつもくさってくる桃 平和」(茨木のり子)――この八月、日本人マジョリティ、ヤマトンチュウである私(たち)が思考する反戦・平和の「質」が根底から問われる「事件」が起きた。沖縄国際大学への米軍ヘリ墜落、そして、東京都の新設中高一貫校での「新しい歴史教科書をつくる会」の教科書採択である。沖縄をいまだ植民地とみなす米国の対応、その米国に追従する日本政府を存続させ、沖縄に米軍基地を押し付けている本土の日本人。日本の侵略戦争や植民地主義を肯定している「つくる会」の歴史認識を根本的に克服する歴史認識を創(つく)りだせずにいる日本国民。いま必要なのは、反戦・平和の「質」を、マジョリティの側こそが、被抑圧者・マイノリティの視点への想像力をもって検証することだと肝に銘じたい。それは、私たちがこの十月一日に創刊する季刊雑誌『前夜』の目指す使命のひとつだと考える。
現在の日本社会は、「戦争前夜」「破局前夜」ともいえる危機的状況である。何としてもこの右傾化に歯止めをかけるべく、抵抗の一つの拠点をつくろうと、私たちは雑誌『前夜』の刊行と、自律的な学習事業〈前夜セミナー〉運営を両輪とする特定非営利活動法人を設立した。
言葉が中身を失っていく時代。情報はますます断片化され、単純化され、「考える」こと自体に意味がないとまで思わされる冷笑主義・相対主義がまん延している。そんな時代に、「反戦・反差別・反植民地主義」をかかげて新たな雑誌を刊行すること、しかも思想・文化・芸術といった諸領域を横断する総合的な批評誌をめざすことは、予想をこえる困難な道のりであろう。一年半にわたる準備の末、創刊を直前にしたいま、なおいっそう実感している。
創刊号の特集テーマは「文化と抵抗」とした。「文化」の場に「抵抗」が乏しく、「抵抗」の場で「文化」が貧しい日本社会の現状を奥深いところから批判し、それを克服する方向性を見い出したい。そのことなくしては、抵抗はぜい弱なものでしかありえず、文化は貧困なままであるだろうと考えるからだ。
巻頭に高橋哲哉ロングインタビュー「哲学は抵抗たりうるか?」、ノーマ・フィールド「戦時下の大学教室で原爆を考える」をあげる。沖縄在住の小説家・目取真俊は本誌のために連作小説の筆を起こした。第一回のタイトルは「眼の奥の森」。在日朝鮮人作家・徐京植が沖縄で行った講演「周縁化されたものが憲法の価値を知る」、それにたいする文学研究者・新城郁夫の応答も読んでほしい。
文化の場で意欲的に抵抗を実践する表現者たちの声として、韓国に生まれ、養子としてベルギーへ渡ったミヒ=ナタリー・ルモワンヌの声を伝える。彼女はコリアン・ディアスポラとして、「アイデンティティ」という思考を根底から問う作品を制作している。
また、パレスチナの作家ガッサーン・カナファーニー作品を岡真理の新訳と解説によってお届けする。チリの劇作家アリエル・ドルフマンと、フランスの哲学者ジャック・デリダからの「対テロ戦争」に覆われた世界の現状に対する抵抗の声を紹介する。「植民地主義とフェミニズム」という問題提起からはじまる宋連玉の『近現代を生きた朝鮮の女性たち』など、東アジアの「戦後」の歴史を再検証する連載の数かず。このほか、若い読み手による共同批評を通じた「つくる会」の歴史認識に抗するブックガイドや映像批評にも力を入れる。
現在の日本社会にない、輪郭のくっきりとした雑誌になるであろう。大いに期待していただきたい。
圧倒的な商業主義、右傾化する日本社会のなかで出版文化活動を持続するには、書き手・読み手・創り手の信頼と連帯がぜひとも必要である。多くの方々に参加してほしい。戦争の時代と植民地主義に抗するメディアとしての『民族時報』に連帯をこめて。
破局前夜が新生前夜となる、
戦争前夜が解放前夜となる、
その希(まれ)な望みを、私たちは棄てない。
第T期=二〇〇四年十月から三年間・十二号で二万円(送料込)。一万円、五千円の分納可。また、一部千四百円+税で影書房から書店販売する。十月九日には東京・ウィメンズプラザで創刊記念集会を開く。季刊『前夜』編集委員(前夜理事)=高橋哲哉、岡本有佳、李孝徳、高和政、三宅晶子、中西新太郎、徐京植、菊池恵介
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